〇 分子生物学的手法を持いた食中毒菌、腐敗原因菌の検出、汚染源追跡法の開発
PCR法をはじめとする分子生物学的手法は、今や一般的に広く用いられるようになってきました。食品の分野においても、食中毒の原因菌や食品の変敗原因菌の同定などに広く利用されています。これに加え、近年、次世代シークエンサーやデジタルPCRといったより高い識別能や迅速性を有し、高度な解析が可能な機器が登場しています。私たちの研究室では、食品製造の現場における高度衛生化を目指し、これらの新しい機器の新たな利用法について研究しています。
これまでの研究例
〇 食品由来成分を用いた微生物の増殖制御法の開発と賞味期限延長
フードロスは持続可能な開発目標(SDGs)の中にも取り入れられており、世界的に重要な問題と認識されています。食品を販売するには、製造から販売、消費までの期間、腐敗せず安全性が保たれていることが重要です。近年、様々な形態の食品が販売されていますが、その中には日持ちをさせるのが難しい食品も多く存在します。食品は菌が全く付着していなければ腐敗することはありません。しかしながら、加熱を含め菌を死滅させる処理は食品の風味を著しく損ないます。食品に残ってしまった微生物の制御法としては保存料が有効ですが、保存料の使用は消費者から嫌厭される傾向にあります。私たちの研究室では食品に由来する成分を中心に、微生物の増殖を抑制する方法を模索し、賞味期限延長が可能な実用レベルの方法を開発しています。また、食品工場で大量に排出される食品残渣の有効利用にも取り組んでいます。
これまでの研究例
〇 水系感染症原因ウイルスの挙動解析と不活化法に関する研究
ウイルスは細菌と全く異なる挙動を有し、その制御法、不活化法には異なるアプローチが求められます。私たちの研究室では、食品を介して感染するノロウイルスやA型肝炎ウイルスなどが食品の生産現場や加工場内でどのような挙動をとるのか、それらを不活化するにはどのような方法が有効か検証を行っています。これらの研究の中で、卵の卵白に由来する成分の中に、ウイルスの不活化が可能な成分を発見し、それを食品へ応用する方法を見出しました。この研究をさらに発展すべく、不活化メカニズムや活性部位の抽出などを行い、より効率のよいウイルス不活化剤の開発を行っています。現在この技術は、スプレー製剤やウェットティッシュとして実用化されていますが、水産の現場である養殖や畜養に利用できる製剤の開発も視野に入れています。
これまでの研究例
〇 乳酸菌、酵母による高付加価値化(発酵、機能性)
有史以前から発酵に利用されてきた乳酸菌や酵母は、保存性、おいしさを与えてくれるとともに、健康機能性が付加される食品もあります。また、乳酸菌や酵母の菌体自体の健康康機能性も古くから知られていますが、そのメカニズムは奥の深いもので、まだまだ未知の世界が広がっています。
これまでの研究例
〇 食品(機能性)成分と腸内常在菌
何を食べたらおなかの調子がいい、身体の調子がいいというのは個人差があるかもしれません。そこには腸内で各食品成分に反応しておなかの中で増える常在菌(Responsible gut indigenous bacteria: RIB)にも個人差があると考えられます。これまで有用菌とされてきたビフィズス菌や乳酸菌以外にも、様々な有用菌候補が報告されています。これらRIBは将来必要とされるテーラーメード機能性食品の開発につながるものと考えています。
これまでの研究例
次世代シーケンサーを用いて各食品に特異的なRIBを検出し、その一部は分離にも成功している。分離RIBついては、菌体そのものの宿主への影響、各食品成分との相乗効果について研究している。